非常通信訓練本部局を運用して
---コンピューター通信リンクの試み ---
名古屋第二赤十字病院アマチュア無線クラブJE2ZND 佐藤公治(JR2TDE)

掲載開始日:2003.10.29

【はじめに】
 名古屋第二赤十字病院アマチュア無線クラブ(通称「八事日赤ハムクラブ」)は、JARL愛知県支部に協力して毎年10月に開催される非常通信訓練に参加している。
 この訓練はJARL愛知県支部が主催し、愛知県全域を対象に非常通信訓練を行い、より実践的な非常通信訓練の足がかりとすることを目的とし、愛知県内で運用するアマチュア局(ハンディー機でも参加可)を対象としている。
 今年は第6回であり、平成14年10月27日にJARL愛知県支部主催の非常通信訓練に参加した。当クラブは、初めて愛知県本部局を受け持つこととなったのでその詳細を報告する。

【災害拠点病院として】
 名古屋第二赤十字病院は名古屋市の東に位置し、835床の大規模病院であり、県から災害拠点病院として指定されている。日本赤十字社の使命である国際医療救援・国内救護に力を入れており、近々発生するとされている東海地震を見据えて今年の9月18日には新救急救命センターでの院内訓練も行われた。またNBC災害に対して除染訓練を10月16日に行った。
 昭和60年より院内のアマチュア無線免許保持者有志の正会員とボランティアの準会員とで名古屋第二赤十字病院アマチュア無線クラブJE2ZNDを運営している。現在、3代目佐藤公治(整形外科医師)JR2TDE会長、伊藤誠(義肢装具士)JG2CZC事務局を中心に20名ほどで活動している。1999年よりJARL愛知県支部の登録クラブとしてパ・ケッタハムクラブと共に毎年支部大会「ハムの祭典」と非常通信訓練に協力している。平成11年には八事レピータ(1291.78MHz)を災害時に貢献する目的で病院屋上に設置した。刈谷レピータ(1291.74MHz)管理団体や上前津レピータ(1292.84MHz)管理団体と交流している。
 病院では、外部とのコミュニケーション手段として普通院内電話の他に業務無線を完備している。日本赤十字社は、全国共通周波数の免許を受けて150MHz帯、450MHz帯の各一波を保有している。また名古屋市医師会および名古屋市地域防災無線機が救急室にあり非常時にはいつでも連絡が取れるようになっている。日本赤十字社愛知県支部には、日赤無線奉仕団が登録されている。
 院内には非常時に常に派遣できるよう医師1看護師2事務2の救護班が9班あり災害対策研修を毎月行っている。この研修の中にテント救護所設営や無線機の使い方などの講習も含まれている。

【八事レピータの設備】
 病院には3つの電源系統があり、停電(外部からの供給がストップ)時には切れる普通の商用電源コンセント(通称白コン)、停電時には35秒ストップした後に自家発電により3日は供給されるコンセント(通称茶コン)、UPS(無停電装置)が接続され自家発電に切り替わり停電時にも切れないコンセント(通称赤コン)が配備されている。八事レピータは、非常電源も装備されている屋上無線室にあり10分持つUPSを通して茶コンセントに繋いである。自家発電の燃料は3日分備蓄されている。阪神大震災では公共施設の電源は、発災後3日前後で復旧している。当院に入る7万ボルトの高圧線も災害時には、当院が災害拠点病院ということで早期に復旧すると考えられる。よって非常時にも無線室の茶コンセント電源は確保され八事レピータは有用になると考えられる。ただ1200MHzのレピータのみなので非常時には阪神大震災のときのように430MHzのレピータを移設すればもっと有用になろう。
 また当院は、名古屋東部の高台であるロケーションの良い場所に位置している。近くには中京テレビのテレビ塔もあり、愛知県内の広い範囲をカバーできる。
 JE2ZNDは、1999年に変更届けし、HFから50、144、430、1200、2400MHZの免許を受け運用可能なようにアンテナが整備されている。アンテナ群は、屋上で風が強いこともあり短い共用アンテナ、日赤業務無線のアンテナに影響しないよう考慮している。

【10月27日(日曜日)非常通信訓練】
 8時に当院シャックに集合した。当日は快晴に恵まれたが屋上は強風で寒かった。JG2GFX種村・愛知県支部長の激励挨拶の後、JA2DEX柴田OMから訓練概略の説明を聞き、ぶっつけ本番で開始した。JE2ZND部員は、午前9時から本部局のある当院屋上無線室より各地のサブ基地局と交信をしたり地区サポート局を手伝った。また1291.78MHz八事レピータを利用しレピータ利用サブ基地局を運用した。その後、JARL愛知県支部役員(JG2GFX種村・愛知県支部長ほかJA2CME、JA2LUH、JE2VMB、JA2DEX)が見守る中、本部局を運用した。


 各周波数帯のトランシーバーに要員を一人以上配置し、144MHz(JG2CZC)と430MHz(JI2HHI,JI2SWN,JP2POX)は無線室内で、1200MHz(JR2TDE,JP2IOH,JQ2BPE)はベランダでオペレートした。
 通常の無線通信訓練は、例年通り地区サポート局が各メイン周波数でサブ基地局の待機する周波数をアナウンス誘導し行われた。この訓練はFMシンプレックスとレピータ利用の運用形態がある。コールサイン、発信場所、RSレポート、出力等を交信した。
 144MHzFM電話シンプレックスではサブ基地局の名古屋市西区JH2CGH、瀬戸市JH2YBM、岡崎市JF2QIN、海部郡蟹江町JA2XEZと交信した。
 430MHzFM電話シンプレックスではサブ基地局の名古屋市南区JA2YYB、碧南市JQ2BJK、一宮市JN2GPQ、宝飯郡小坂井町JP2ER0、海部郡蟹江町JA2CJNと交信した。
 430MHzレピータ利用して、中区JR2WBを利用して中区JJ2JIXと、岡崎市JR2VMを利用して岡崎市JG2JAVと交信した。
 1200MHzシンプレックスでは、春日井市JN2WUB、海部郡佐屋町JI2ZKCと交信した。
 1200MHzレピータ利用では、刈谷市JP2YFOを利用して刈谷市JR2YEC/2と、常滑市JP2YFGを利用して常滑市JA2JCVと交信した。
 八事レピータ(1291.78MHz)を利用してJE2ZND(op.JR2TDE)は、9時から10時まで一時間で25局と交信できた。名古屋市内のハンディ、郊外の固定局、モービル局と交信できた。

 JH2MMB/2は大口町を移動し緊急ヘリポートではRS53で交信できた。救急ヘリの時代を迎え、災害拠点病院でヘリポートの中心となる愛知医大ヘリポートや名城大学グラウンド緊急ヘリポート等とも来年は通信訓練をすべきだと考えた。今回アクセスは、西は安八郡、東は安城、北は春日井、南は常滑ぐらいのところがサービスエリアであった。ハンディでは市内東部から日進町がアクセスできた。
 その後、本部局として愛知県内各地のサブ基地局と参加局数、メリット交換などの交信訓練を行った。ここからが本部局の訓練で本領発揮のはずであった。

【ハプニング発生】
 144MHz、1200MHzは順調に交信数を10時10分にはチェックしおえた。が、しかしなんと10時直前に430MHzのリグが壊れてシンプレックスの周波数設定ができなくなった。リセットもまま成らず、代替え機に変更したが、代替え機がTRIO(KENWOOD前身)のリグで、これまたマイクの不良か送信できないときた。とりあえずハンディを使い近隣のサブ基地局と交信数などのチェックを行いつつ、ハンディをGPにつなぐセッティングを行い、やっと遠方の小坂井のJP2EROとチェックを終わり集計できたのは10時42分であった。
 やはりロケーションが良く、ハンディでもかなり遠方とも連絡が取れる場所であったのが幸を奏し、10時45分通信訓練を終了した。
 結局144MHz 71局、430MHz 90局、1200MHz 95局、地区サポート局・サブ基地局・本部局33局 合わせて287局が今回の訓練に参加した。ちなみに平成12年度は303局、平成13年度は223局であった。今年度はパケット通信の訓練は行わなかったが、情報を正確に伝達し記録が残るパケット通信は災害時には極めて有効な通信手段として、愛知県支部では今後も訓練に組み入れて行く方針とのこと。無線室にはいつでもできるようコンピューターとTNCは準備してある。

【JARL愛知県支部の訓練前日と後に院内の訓練】
 院内では、高出力のハンディは医療機器への影響があり使えない。また災害時に無線室につめているわけにいかないので、院内電話や医療オーダリング用に配置されているイントラネットの端末から非常時にはレピータにつながるようにしてあり、前日の10月26日にこの非常通信の訓練を行った。
 院内電話とのフォーンパッチは、ADONIS TA220を使い1200MHzハンディ機を通してレピータとリンクし、院内の救急外来の部屋からアクセステストを行った。
 またイントラネットとのリンクは、無線室にWindowsマシンを設置しNetMeetingを立ち上げた。ADONIS マイク切り替え機AK-9 を使い1200MHzハンディ機を通してレピータとリンクした。院内端末(WindowsNT)のNetMeetingからプライベートアドレスで、院内の整形外来からアクセステストを行った。

【インターネットとのリンク実験】
 現在、日本ではレピータとインターネットとの直接リンクは、許可が出ていないのであくまで非常時の実験として、ハンディ機を通してゲートウェイする形で今回は行った。当院イントラネットはセキュリティの問題で、プライベートアドレスが端末には割り振られている。よってグローバルアドレスを使ったソフトで外部とのリンクはできない。
 EchoLink(www.echolink.com)を使ったインターネット電話をJA2ATS (刈谷市)との協力で行った。このシステムは、コンピューターのヘッドセットやリンクしている別の周波数から無線でもアクセスでき、世界から英語で呼ばれる。また屋上にてJA2RQK局の協力でPHSを利用しEchoLinkをインストールしたノートパソコンでレピータとの交信を試みた。
 もう一つのインターネットリンクであるWIRES2の実験も行った。アメリカで流行しているDTMF無線機とインターネットリンクの交信である。まだ新しい技術だが、先日のハムフェアでも話題になっていた。電化パーツ四日市店JA2YUE/2 (#5203D)と福井市JA9YFO(#5908D)から安城市JR2YEC(#5212D)を経由してレピータにリンクして実験した。


 音声信号のゲイン設定が不良でアクセスはできたが交信はできなかった。無線機とコンピューターとのインターフェースHRI100が最近流通し始めたところなので、これからこのシステムを使ったシンプレックス運用局が増えるだろうが、なによりもレピータとインターネットの直接リンクの許可が待ち遠しい。また画像を同時にインターネットとレピータ経由でリンクできれば災害時にも有用となろう。

【最後に】
 名古屋第二赤十字病院アマチュア無線クラブは、今後も赤十字精神にのっとり非常時に貢献できるよう設備管理と訓練を、あたらしい技術進歩にチャレンジしながら続けるつもりである。