D−STAR

D−STARのデジタルデータ通信


 D-STARトランシーバーでは,デジタル音声通信に加えてデジタルデータ通信をおこなうことができます。従来のアマチュア無線のデジタル通信と言えば,1200bpsのアマチュアパケット通信が代表的です。占有周波数帯幅のとれないHF帯では300bpsでアマチュアパケット通信が運用されました。また転送系ネットワークの一部としては,9600bpsのアマチュアパケット通信が運用された実績もあります。
 アマチュアパケット通信では,アナログ変調方式のトランシーバーとパソコンを,TNCという周辺機器を介して接続することで,データ通信ができるというものですが,TNCが持つモデムのアナログの音声信号により変復調をおこなう(AFSK,PSKなど)方式と,アマチュア無線で使用可能な電波の占有周波数帯幅の制限で,通信速度は事実上9600bps止まりでした。


 D-STARトランシーバーでは128kbpsのデータ通信が可能となります。Mbps単位のブロードバンドネットワークの通信速度には劣るものの,1200bpsの従来のアマチュアパケット通信の100倍のスピードで手軽にデータ通信ができるようになっています。
 なお,従来のアマチュアパケット通信とは通信速度やプロトコルなどが異なりますので互換性はありません。


●インターネット用アプリが応用可能
 機器の接続に関して,従来のアナログ無線機によるパケット通信との違いは,パソコンとの接続にTNCを必要とせず,左の図のように10BASE-T(イーサネット端子)で接続する点です。

 D-STARトランシーバーを接続したパソコン間のデータ通信は,ブラウザーやメーラーなどのインターネット用のアプリケーションがそのまま使用できます。

 Voice-IPの音声通信やストリーミングソフトによる動画もできますが,アマチュア無線では回線容量の関係であまり快適ではないかもしれません。


 またWindowsなどOS上のネットワーク共有も,通信プロトコルやワークグループの設定により可能です。
 D-STARトランシーバーのデジタルデータ通信では,「アマチュア無線で無線LANのようなことができる」とイメージするとわかりやすいかもしれません。

 データ部のフレームには,「音声フレームとデータフレーム」の繰り返し20回に1回,同期信号を入れることになっています。これはフェージング等によって通信の途中で信号が途切れると,受信側で同期がとれなくなって再生不可能になることを防ぐものです。




動作概略図

 上図が,デジタルデータ通信を使用した場合のD-STARトランシーバーの動作の概略図です。
 データ系通信の送信は,10BASE-T端子から入力されたデータをインターフェース(Interfaceのブロック)を介して結び,Transmitterのブロックでデジタル音声通信と同様GMSK変調し増幅して送信します。
 受信については,音声信号と同様にGMSK復調され,インターフェースをとおって10BASE-T端子からパソコンにデータが出力されます。
 デジタルデータ通信のパケットの構成は,次の図のようになっています。


無線ヘッダ部
データ FCS
ビット
同期
フレーム
同期
フラグ1 フラグ2 フラグ3 ID
PFCS
E-LEN MAC Header データ
フレーム
CRC
送り先
レピータ
コール
サイン
送り元
レピータ
コール
サイン
相手局
コール
サイン
自局
コール
サイン1
自局
コール
サイン2
SA DA Type
64bit
15bit
1byte 1byte 1byte
8byte
8byte
8byte
8byte
4byte
2byte
2byte

6byte

6byte

2byte

46-1500byte

4byte


 無線ヘッダ部はデジタル音声通信と同様です。この無線ヘッダ部以降は,イーサネットパケットで構成されています。インターネットではこのイーサーネットパケットとTCP/IPというプロトコルでデータの伝送をおこなっています。D-STARのデジタルデータ通信がインターネットの通信と親和性が高いのはこのような理由です。
 D-STARのデータ通信では,インターネットと全く同じデータ構成でデータが送受信されているため,インターネット用のアプリケーションを容易に活用することが可能なのです。


●デジタルデータはどのように送信されるのか?
 次の図はデジタルデータ系通信でメッセージを送る過程を表しています。
 左側のユーザーAから右側のユーザーBにメッセージを送ります。作られたメッセージに有線部でそれぞれTCP,IP,インターネットのヘッダがつきます。これは接続しているパソコンで自動的に処理されます。10BASE-Tより出てきたこのイーサネットパケットに,無線ヘッダをつけて無線で送り出します。
 受信側ではこの無線ヘッダを解読し,ヘッダを取り外して10BASE-Tより接続しているパソコンに,イーサネットパケットとして渡します。あとはパソコンが自動的に処理して,メッセージがユーザーBのパソコンに現われることになります。
デジタルデータ系通信でメッセージを送る過程





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